~学芸員の喜び~
思えば就職後約20年、家庭の事情で退職するまでの学芸員としての活動は、私に色々な出会いを演出してくれました。
先輩や同僚、後輩達との熱情を込めた議論の応酬、ミュージアム活動への思いや博物館事業へのこだわり、科学館の将来展望にまつわる思いの数々や、館内のメンテナンスに関わってもらっている色々な業者の方々との共同作業や、来館者の方々とのワークショップなどでの様々な交流・・・。
そんな中でも印象に残っている人も多数居られますが、今も強烈に残っている来館者の言葉があります。
就職して十年程過ぎた頃、いつもの様に閉館間近の館内巡回を経て、玄関ホールに出ていた時の事です。
玄関ドアを通り過ぎようとしていた子ども連れのお母さんが、振り返りながら私に向かって不意に
「有り難うございました!」
子ども連れのお母さんが発した一言・・・
私は、ハッ! としました。
何故、来館者の方がお礼をいわれたのか・・・。
施設を運営している私達からすれば、お客様である立場の方から「ありがとう」と言う感謝の言葉がなぜ発せられるのか・・・。
一般の社会であれば、お金をいただく私達の方こそ、「有り難うございました」という感謝の言葉を言わなければならないのではないのか。
一瞬、私の頭の中を巡らした自問自答・・・。
そうか!
あの言葉は、来館者の方の心から発せられた素直な感謝や感動、まごころからの言葉なのだ。私は、何とすばらしい仕事、ありがたい職業に就く事ができたのか・・・。
学芸員を始め、類似の施設、同じ様な文化施設で働く者達は、入館料を払って来て頂いた方々から感謝の言葉をいただいているという、その有り難さを噛みしめないといけないのではない。
多くの学芸員は、この現実に感謝する必要があるし、だからこそより一層がんばる事も出来る。
私は、この日の出来事によって、これが学芸員としての喜びというものであると気付かされました。
そんな思いを持った学芸員時代の一コマでした。
写真説明/
0系新幹線の1号車4両を保存展示する為に、展示場横に空き地になっていた大阪港への貨物線用地を展示室に転用する為の工事現場の写真。この後、線路を敷き、実物車両を並べてから建屋を建て、最後に壁面を取り外して館内と一体化させた。車両の搬入は、大阪南港に海上輸送された車両を、深夜、時速15キロで陸送した。
コメントをお書きください